検察への信頼を地に落とした大阪地検特捜部の押収資料改竄(かいざん)・犯人隠避事件を受け、最高検が打ち出した指針では、特捜部が手掛ける独自事件のうち、容疑者や被告の供述調書の任意性が争われるようなケースでは録音・録画を行うとしている。男のケースに、これが初適用された。
だが、初めての取り組みだけに、試行錯誤もあったようだ。カメラが回るのは、調書が書き上がり、男が署名や押印を済ませた後。男は「検事が確認したいことだけを聞かれて、自分が言いたいことを言えなかった」と漏らす。
7月20日の初公判を境に、男の不満が噴き出す。
「取り調べの録音・録画は、検察に都合のいい事実を記録するだけのものだ」
男の心境について、弁護人は「検察側の冒頭陳述には、被告人が録音・録画の中で訴えた犯行前後の苦悩や葛藤などが反映されていなかった。自分が主張したことは無駄だったのか、とショックを受けたようだ」と説明する。
一方、捜査関係者は「被疑者や被告人から聞いた話の全てを供述調書にまとめ、証拠として公判に提出するわけではない」と一蹴。男が訴えたかったことも記録されているはずのDVDは、皮肉にも男が起訴内容を認めたために、法廷では証拠として調べられなかった。
検察側にとって、供述調書の任意性を立証することは不要となったからだ。男は公判で思いを吐露した。
弁護人「大阪特捜で初めての録音・録画だったが、何を感じたか」
男「自分の動機を、調書に取ってもらえると思っていたが、検事が聞きたかった話のみが、法廷に証拠として出されただけだった。いったい何のためにするのかと思った」